幸せな家庭を築くために引っ越してきたこの地で、早朝に犬を二頭連れて散歩をするのが日課になっていました。
あの頃は、確かに幸せな日々を過ごしていたと思います。
リーマンショックが起きるまでは。
フリーランスの個人事業主として、私は長く仕事をしてきました。
派遣会社に登録し、出向先の企業でプロジェクトが終わっても、次の現場がすぐに決まる。そんな流れが当たり前になっていました。
正直なところ、リーマンショックを舐めていたのだと思います。ニュースを見ながらも、どこか他人事のように感じていました。
最初のうちは仕事も続いていましたが、次第に単価の低い案件しか来なくなり、プロジェクトとプロジェクトの間隔も空いていきました。
そして、ある時を境に、仕事がまったく入ってこなくなりました。
派遣会社に頼っていてもどうにもならないと感じ、同じ職種だけでなく、正社員やパートの仕事も含めて探し始めました。
しかし、ハローワークから応募しようとしても、当時は履歴書の郵送のみの受付がほとんどで、「ご期待に沿えませんでした」という返事が続きました。
ネットの求人サイトから応募しても、結果は同じでした。
気がつけば数カ月が過ぎ、数十社に応募しても仕事は決まりません。
しびれを切らした妻は、子どもを連れて実家に帰ることを私に告げ、引っ越しの日取りまで決まってしまいました。
自分が進んできた道は、間違っていたのだろうか。
十分な話し合いもないまま、子どもを連れて家を出て行かれることに理不尽さを感じながらも、何もできない自分が情けなく、ただ唇を噛みしめていました。
妻子の引っ越しが間近に迫ったある日の早朝。
いつも通り犬の散歩をしていると、涙があふれて止まりませんでした。
「このまま、この踏切に飛び込んだら楽になるのかな……」
そんな考えがふと頭をよぎり、これまでそうしたニュースを軽く見ていた自分を、心の底から恥じました。
ああ、そういう選択をした人たちは、きっとこういう絶望の中にいたのかもしれない。そんなことを考えました。
と、その時、私の方を嬉しそうに見つめている犬たちの姿が目に入り、「はっ」と思いとどまりました。
「こうなってしまったからには、一度は実家に戻ってもらおう。
生活をシンプルにして、もう一度仕事を見つけて、必ず妻子を迎えに行こう」
あの早朝、踏切の前で立ち止まった瞬間は、今でも人生の分岐点だったと思っています。
今もなお、教訓として心の奥にしまっている出来事です。

Comments are closed