
私には、人生の中で何度か仕事探しに苦労した時期があります。
先の見えない不安と焦りの中で、心も身体もすり減っていくような、そんな時期でした。
そのうちの一つは、まだ若かった頃のことです。
なかなか就職先が決まらず、気持ちが沈み込んでしまう日々が続いていました。
仕事の事ばかり考えているとどんどん落ち込んでしまうため、気晴らしに大都市をあてもなく散歩することが何度かありました。
ある日、大きな商店街を歩いていると、ポストカードのような紙を配っている人に声をかけられ、半ば強引にそれを手渡されました。
何気なく目をやると、そこには私の大好きな画家、ヒロ・ヤマガタさんの展示会の案内が書かれていました。
しかも「入場無料」。
思いがけない出来事に、心が少しだけ明るくなったのを覚えています。
案内図を頼りに会場へ向かうと、そこには確かに本物の作品が数多く展示されていました。
実際に目の前で見る絵は、画集やポスターで見るものとはまったく違い、思わず息をのむほどでした。
しかし、有名画家の展示会が無料という点に、どこか違和感もありました。
その理由はすぐに分かります。
作品を食い入るように見つめている私に、会場のスタッフの方が声をかけてきたのです。
「こちらの作品は150万円です。ローンのご相談もできますよ。」
展示即売会だったのです。
改めて作品の下を見ると、確かに価格が表示されていました。
色々な作品の価格を見てみると一番小さな作品でも40万円ほど。
仕事探しの途中で立ち寄った私にとって、それは現実からあまりにも遠い数字でした。
シルクスクリーン(現代版の高度な版画)とはいえ、本物の作品を見られたことに感動しつつも、私は足早に会場を後にしました。
買えるはずもないのに、心だけが大きく揺さぶられていたのです。
その興奮が冷めやらぬまま、私は近くの大型書店に立ち寄り、ヒロ・ヤマガタさんの画集を手に取りました。
ページをめくりながら、先ほど見た展示会の光景が何度も頭に浮かびました。
この画集の絵を鑑賞しながら仕事を見つけて本物の絵を買えるくらい稼いでやろう!
そんな思いを胸に、気がつけば、私は冷や汗をかきながらレジに並んでいました。
その画集は、当時の私にとっては高価な6,000円だったからです。
150万円の作品は買えませんでした。
けれども、その画集を手にしたことで、あの頃の悔しさや憧れ、不安の中にも確かにあった情熱を、今でも懐かしく思い出すことができるのです。
