
高校生になった今でも、息子と私の間には、小学校低学年の頃から二人で遠方へ出かけて余暇を楽しんだという思い出は、ほとんどありません。
それには、ある事情がありました。
息子がまだ小学校低学年の頃、私と二人で実家へ引っ越してきたのです。
当時、妻は先物取引に手を出し、度重なる借金の問題を抱えていました。住んでいたアパートも家賃を滞納し、もう住めなくなっていると告げられ、私たちは急遽生活の拠点を移すことになりました。
突然始まった、母親のいない生活。
息子は多くを語ることはありませんでしたが、その胸の内には計り知れない寂しさや不安があったのではないかと思います。
そんなある日、学校から持ち帰った一枚のチラシを、私にそっと差し出しました。
「ここ、行ってみたいんだけど。」
それは、地域で小学生を対象に活動しているミニバスケットボールチームの案内でした。
正直なところ、私は運動とは無縁の人間で、バスケットボールのことなどほとんど知りません。それでも「いいよ」と答えたその一言が、後に大きな意味を持つことになります。
休日になると、地元の体育館で練習が行われ、私は少し離れた場所からその様子を見守るようになりました。やがて試合の日程が決まると、遠征も増えていきます。片道2時間かけて他地域の体育館へ向かうこともありました。
夏の体育館は立っているだけで汗が噴き出し、冬は厚着をしていても身体の芯から冷え込む。
親にとっても決して楽なものではありません。
それでも、子どもたちは全力でボールを追いかけ、仲間と声を掛け合いながら成長していきます。その姿を見ていると、不思議とこちらの疲れもどこかへ消えていくような気がしました。
そして何より、指導者の方々や保護者の皆さんの存在には頭が下がる思いでした。試合の企画や運営、遠征の段取り、さらには帰り道に子どもたちが楽しめるようにと道の駅に立ち寄る配慮まで。そこには、子どもたちへの深い愛情が感じられました。
最初は「少し面倒だな」と思いながら始まったミニバスへの参加でしたが、気がつけば、私にとってもかけがえのない時間となっていました。
卒団式の日、胸にあふれてきたのは、ただただ感謝の気持ちでした。
コーチをはじめ、このチームを支えてくださったすべての方々への感謝。そして、あの時「やってみたい」と言ってくれた息子への感謝でもあります。
あの経験があったからこそ、私たち親子は、言葉にしなくても通じ合える時間を重ねることができたのだと思います。
遠くへ出かけた思い出は少ないかもしれません。
それでも、あの体育館で過ごした時間こそが、私たちにとっての「かけがえのない旅」だったのだと、今はそう感じています。
